Sakuyaのイソジオタ活のススメ

サブカルにまみれていたバブル時代を経て現在五十路

忘れられない物語、「五色の舟」

たまに、一度読んで以来、忘れられなくなる話がある。

例えば、小学生の時友達の家などで読んだマンガ。萩尾望都さんの「11人いる!」とか佐々木淳子さんの「リディアの住む時に…」のように。強烈にそのストーリィが頭に残って消えない。そうして、そんな話とは後年、決まって再会できる。

そんな話の一つが「五色の舟」、津原泰水さんの短編小説である。作者の津原泰水さんは、2022年に若くして亡くなっている。

この話を最初に読んだのがいつだったかは思い出せない。初出が2010年ということなので、今から10年くらい前だろうか。短編集「11(eleven)」の最初にこの短編はひっそり載っていた。先日、この本を図書館で借りて再び読んでみた。静かな筆致の中に、郷愁と幻想が入り混じる世界。最初から引き込まれた独特の世界観。

どんな話かを説明するのはなかなか難しい。いわゆる「見世物小屋」の話である。時代背景は第二次世界大戦終戦の少し前。身体の一部が欠損していたり、不具合がある異形の者同志が見世物を生業として疑似家族として一つの舟で暮らしていた。そして、「くだん」の出現。「くだん」を知っているだろうか。人の顔をした牛で、過去も未来も、真実を話す。

主人公は、この一家の次男である和郎。彼は腕がなく、耳も聞こえない。だが、人の心を読む力がある。

家族に見放されたこの疑似家族に、なぜだか「哀しさ」はあまりない。みな淡々と、自分の運命を受け入れている。和郎も自分の出生を呪ったりしない。彼の淡々とした様に、とても惹かれた。「透き通った純粋な心」の少年ではないが、色はついていても、底まで見ることのできる澄んだ心を持っている。

この物語では、「くだん」は望めば別の世界に連れて行ってくれる。和郎も家族と共に、終戦前に別の世界に行けたのだが…

この話の不思議な世界と、和郎のキャラは、初読で私の心にしっかりと刻まれた。だから、次に出会ったとき、とても嬉しかった。

この物語との再会は、2014年。近藤ようこさんのマンガでである。

このマンガがまた、素晴らしかった。映像化が難しいと思われたこの原作を見事に描き切っていて、とりわけ近藤さんの描く和郎は本当に素敵だった。清潔感のあるどこにでもいそうな少年でありながら、どこかエロティシズムを漂わせて川辺に佇んでいる。和郎は、どんなに汚されても汚れない、澄んだ心を持った少年で、それなのに夜の色気を放っていた。この、和郎のキャラを私は時折無性に見たくなる。なのに、本は持っていない。読みたいときは読める書店に行って、立ち読みする。読むたびに、心が激しく震える。この物語の独特の郷愁と幻想が、私の心をとらえて離さないのだ。