Sakuyaのイソジオタ活のススメ

サブカルにまみれていたバブル時代を経て現在五十路

KERENMIアダルトMVに寄せて

さて、アダルトのMVです。正直見た瞬間から、引き込まれ過ぎて頭の中がアダルトのリュウヘイに侵されちゃってたんですが…(笑)

音髭で歌うリュウちゃんを見て、やっと現実に戻ってきたような。それでも、心の底に溜まった想いがとろ火で煮込まれてて、外に出してあげないとすっきりしないというか。


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それでやっと。このMVを見て思ったことをMVに正確に沿っていないかもですが、少し物語仕立てにしてみました。

ラスト見ると、夢オチ的なんですが、それじゃ誰の夢なの?という疑問が残ります。

アヴちゃんの?リュウヘイの?二人の?…でもあまりしっくりはきません。誰の、ではないのかもとも思いましたが、私は「店長の」かも、と考えてその路線で話を作ってみました。昨日の夜に話を詰めて、今日の午前中2時間で書きました。書き出したら止まらずに最後まで行けました。

以下に載せます。これを読んで、皆さんが何かを感じてくれたら嬉しいです。

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同じような日常を積み重ねているとふいにそれが歪んで見えることがある。

変化のない日常。現在が何月何日なのかさえわからなくなる。

ただ惰性で、仕事に向かう。同じ朝、同じ風景、いつもと同じ、夜。

 

街はずれの小さいコンビニ。自分は一応そこの店長として働いている。副店長と二人で朝番と夜番を交代でこなしていて、今日は夜番だった。

出勤して狭い事務室に詰めていると、今晩のバイトの子が入ってきた。

「今日はシフト5時まで?よろしくな。」

声をかけても軽くうなずくだけ。最近の若者は、あいさつもしない。ユニフォームを着るとさっさと出て行った。大学生の深夜バイトくん。

こんなコンビニには、深夜はほとんど客が来ない。暇だからといって、客がいない時にゲームをしているのを最初は注意したが、その後も隠れてやるのを見て注意するのを諦めた。

彼が、自分のいうことを聞いて、バイトの間真面目になったからって、きっと何も変わらない。急に品行方正になったりしない。

思えば、自分もそうだったから。あの頃は…何をするのもかったるく、人のいうことは何一つ聞きたくなかった。何かにひどくイラついていたあの頃。

 

12時を過ぎて、ほとんど客がこなくなると、自分は事務室に入り、画面越しに店内の様子を監視する。客がこない、つまりは物騒な時間帯だから。相変わらずバイトくんはゲームをしていた。

 

自動ドアが開いて、客が入ってきた。いつもの客だ。この時間帯に決まってやってくる。背の高い痩せた長い髪の女の客。最初、レジで彼女の腕を見たときは驚いた。たくさんの切り傷。生々しく血がにじんでいる新しい傷跡もあって、思わず顔を見てしまった。目を反らして俯いたその顔が。

少しだけ自分の姉に似ていた。

 

姉は、自分が高校生の時に失踪した。

誰もが知っている大手の企業に就職したが、3ヶ月ほどでおかしくなった。どんどん痩せて、眠れなくなり、夜中に叫んでいた。仕事はやめて、引きこもりになった。

そして、いつかの夜に、姿を消した。

姉の部屋には今でも成人式に撮った振り袖姿の写真が飾ってある。

そういえば、成人式の日、ふいに姉にこんなことを聞いた

姉ちゃん、大人になるってどういうこと?

それに対して姉は、こう答えた。

何かを諦めるってことかな…

 

何かを諦める、それを実感したのは、自分も大学卒業後に勤めた商社をやめたときだったかもしれない。

 

彼女はいつものように、よろよろとふらつきながら、サプリメントとスイーツの棚をあさり、カゴをバイトくんの前に置いた。

それをちらっと一瞥して、ようやくかったるそうに腰をあげてバーコードを読んでいく。会計を終えて、おつりを渡そうと…

えっ!? と、思わず声が出た。

バイトくんが女の腕をつかんで一緒に出て行ったのだ。

「おい!」

追いかけようとして、思いとどまる。自分が出ていったら店は無人じゃないか。

いったい何が、起こったんだ?

あの二人に何か接点があったのか?

胸がドキドキした。あの暗闇の向こうで、二人は何をしているのか。いろんな想像が交錯する。

しばらくして少し落ち着くと、まるで夢だったような気がしてきた。無人の店に自分一人。誰一人客も来ない。自動ドアは閉じたきり。たとえ目を凝らしても…その闇の先は見えてこない。

 

1時間くらいだったか、ぼんやりとしていると、ふいにドアが開いて、バイトくんが帰ってきた。

ユニフォームをレジに置いて、また出ていこうとして振り返る。そしてレジ横の花火を手に取って…

「おい、待てよ!」呼び止めようとしたが、まるで耳に入っていないかのようだった。それでも律儀にお金を払う彼の腕を取る。

「どうする気だ?おまえ、あの女と…」

その問いに少しだけ自分を見て、でも答えずに彼は出て行った。真っすぐに前を見て、少し微笑んで。

けれど、開いたドアは今度は閉じなかった。

 

その闇の向こうに…

花火が見えたのだ。眩い、大輪の花が。いや、彼が持って行ったのは子供用の花火だったはずだ。それにこんな夜中に大きな花火が上がるはずもない。

それなのに。

次々と夜空に上がる美しい花火。そしてそれを見上げる彼と彼女。

二人で同じものを見上げる幸せそうな顔。その美しい瞳。

 

いつしか、姉と昔の自分の顔になって見えて…

苦しむ姉に、何もできなかった幼い自分。傷つくことが恐かった、無知な幼さ。

何かを諦めて大人になれたか。

本当は何も諦めずにいたかった。

泣きたかった、あの夜。あの夜、あの夜。

心の底から叫びたかった、あの日。

 

自分の涙で二人の顔が見えなくなった。ずっと、泣くのが恐かった。姉がいなくなった日、泣き崩れた両親。だけど自分は泣けなかった。ずっとこの涙を隠して、生きてきた。

 

自分の泣き声で、我に戻った。

気が付くと、狭い事務室に座っていた。

目の前の画面にはレジを打つバイトくんの姿が…

何だ? ぼんやりした頭を振って、もう一度目をこらす。

爪をいじりながら会計を待つ女。

 

まさか、夢だったのか?

いつものように彼はかったるそうにお釣りをトレイに置いて何も言わずにカゴを片づける。

そして彼女はトレイの上に置かれたお釣りを取って、出て行く…

 

自動ドアが開く。

あのドアの向こうの闇はどこへ続いているのか。美しい花火の見える、あの世界に続いているのか。あの日の自分に、そしてどこかにいるかもしれない姉に続いているのか。

きっとこの夜は…いろんなところへ続いている。彼と彼女が笑える未来へも。

泣いて、叫んで、血を流しても。自分らしく生きていける未来に。

 

そう思うと少し優しい自分になれる気がした。