Sakuyaのイソジオタ活のススメ

サブカルにまみれていたバブル時代を経て現在五十路

「線は、僕を描く」レビュー

もともと、物語オタクで、小説を読むことが大好きなんですが、このところ推し活が忙しくてなかなか読めず、いったいどのくらいぶりかわからない読了でした。

話題になった当初、読みたかった「線は、僕を描く」。発刊は2020年でしょうか。当時何かで知って(ダ・ヴンチかな?)読みたいなぁと思ったのですが作者の名前がなぜか覚えられず。砥上裕将さんでしたね。

今回、横浜流星さん主演で映画化されて再び脚光を浴びています。映画化のおかげで読みたかったことを思い出したので、主人公についてはキャストを知ってから読んでしまったのですが、うまく彼のイメージから離れて読むことができました。

水墨画というマニアックな世界のお話で、よくある才能のある主人公が成功していくのとは少し違う、いわば再生のお話でした。

主人公が、水墨画と出会い、自分をまた愛せるようになるまでを丁寧に描いていて、特に水墨画を描くシーンの描写がすばらしかった。何かを表現するところを描写するのは一様に難しいと思うのですが、そこがこの小説の見せ場でした。音楽や美術、芸術を読者に「見せる」ということは、描写力の勝負で、それができないと、小説として成り立たない。特に水墨画なんて、そうそう詳しい読者はいないだろうから、それを理解させる筆力が必要だと思うのですが、冒頭の主人公が千瑛の水墨画を見るところから引き込まれました。水墨画だけでなく、芸術というものはみなそうなのでしょうが、ただ表面をなぞるだけではダメで、自分の内面へ降りて行かないと表現できない。自分と見つめ合う覚悟がないと大成しないと思います。

すべてを失っている主人公の内面が、水墨画という白と黒だけの世界の象徴であるなら、その白と黒だけの世界に色を感じることができるようになり、少しずつ、自分の中にも色を取り戻していくという再生を描くには水墨画はぴったりの題材です。ライバルであり、憧れの存在でもある千瑛と触れるか触れないか、変にベタベタしない最後まで緊張感のある関係であるところも良かった。

そして、水墨画の世界がとても端的に初心者にもわかりやすく描かれていることに感心したのですが、あとから、作者が水墨画を実際やっている人だとわかり、納得でした。全体としてタイトで、ストイックな、私好みな小説でした。

映画にも興味がわいたので、劇場で見るのは難しいですがいつかぜひ。

ちなみに劇場公開は、明日10/21からです。